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佐藤 安南(さとう あんな)

認定講師資格を2012年8月に取得され、その後の3年間でさまざまな企業研修に登壇し、実績を築かれている佐藤安南さん。これまでの経験や、講師としてどのような工夫をされているのか、今後の目標などについてお話を伺いました。

佐藤さんは、国土交通省、東京ガス、トッパン エムアンドアイ、大手企業新人研修、大手企業営業研修などでの講演実績が多数あり、豊富な事例と高い講師スキルで、受講生のみならず、ご依頼いただいた企業の研修担当者からも厚い信頼と高い評価を得ている講師です。

佐藤安南プロフィール

資格を取得してよかったこと

3年間、認定講師として活動をして、この仕事をやっていてよかったなと思うエピソードはありますか。

一番よかったと思うのは、それまでに比べて私宛てに届くメールが格段に読みやすくなったことです。

現在、自分のメールの署名には「一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師」という肩書きを必ず入れています。私の本業は映像ディレクターですが、資格取得後に「映像ディレクター」という肩書きと並べて「認定講師」の肩書きを記載するようにしたところ、相手からくるメールのお返事が以前に比べてとても丁寧になったんですよ。

不思議ですね。「一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師」という肩書きは相手の気持ちを引き締める効果があるのでしょうか。

そうかもしれませんね。相手にプレッシャーを与えているようで、ちょっと複雑な気持ちもありますが、このように署名を書くのは自分自身への戒めでもあります。

ビジネスメールの署名に「一般社団法人日本ビジネスメール協会認定講師」と書くからには常に、きちんとした文章を書かなければいけないという意識がものすごく高まりますから。

結果として、認定講師の資格を取得する前に悩んでいたことが、かなり解消されました。

資格取得前は、どのようなことに悩んでいらっしゃったのでしょうか。

以前は、ちょっと理解に苦しむようなメールを受信することが本当に多かったのです。資格取得後は、そうしたメールは激減しましたね。署名に肩書きが一つ加わったことで、受信するメールの質が上がったのは間違いありません。

名刺も同じようなスタイルで作成しており、手渡しするときに「映像ディレクターですがビジネスメールの講師もしています」と必ずお伝えしています。すると、相手の方が私にメールをくださるときに「緊張して、メールを書くのにちょっと時間がかかりました」と書き添えつつ、分かりやすいメールを送ってくださるようになりました。

私自身が読みやすく分かりやすいメールを書けるようになったということも、受信するメールが分かりやすくなった大きな要因でしょう。理解しやすいメールには、相手も答えやすくなりますからね。

直接、伝えなくても、私ども認定講師のメールを通して「こう書くんだな。これって便利だな」と何となくメールのルールやマナーを学んでくれる方も多いと思います。肩書きだけでなく、それに見合う中身が伴っているからこその効果だと言えると思います。

その他に、認定講師になってよかったと感じることはありますか。

それまで接点のなかった、さまざま業種の方にお目にかかる機会が増えたことでしょうか。もちろん、映像ディレクターとしてテレビ番組の制作に関わる中でも多種多様な方にお話を伺う機会はありますが、普通のビジネスパーソンが日常で、どのようにメールでやり取りをしていて、どのようなことで悩んでいるかを知る機会は意外に少ないんです。

講演を通じて、休憩時間などちょっとした雑談の中で話を聞くことができ、見識が広がったのは非常に有意義だと感じています。自分の住んでいる世界がこんなに狭かったのかということを気付くきっかけにもなりましたね。

また、日本語に対しても、より意識をするようになりました。自分自身が日常生活の中で話す言葉や書く言葉に対して、とても注意深くなりましたね。文章を書くスキルも、認定講師の資格を取って講師を務めさせていただくようになってから、格段に上がったような気がしています。

学びを深めるためには継続して学び続けることが重要

日本語に対して理解を深めるために、講師としてのスキルアップのために、佐藤さんが努力されていることがあればお聞かせください。

たとえば、テキストの中で取り上げている表現を別の設定で使用したらどうなるんだろうとか、事例として挙げている表現以外にもどのような言い換えができるだろうかなど、思考を意識的に広げ、自分の中で表現のストックを持つようにしています。

日本語に関する本も、いろいろと読んでいます。一般社団法人日本ビジネスメール協会代表の平野さんのご著書はもちろんですが、石黒圭さんの「よくわかる文章表現の技術」シリーズ(明治書院 )、「文章は接続詞で決まる」(光文社)などが役に立っています。

日本語表現や敬語表現を特集した雑誌やムックは、よく買いますね。漫画ですが「日本人の知らない日本語」(メディアファクトリー)というシリーズは分かりやすくておすすめですよ。

複数の辞書を持つことも有効だと思います。最近は、辞書もiPhoneなどの携帯端末に入れられるので便利ですね。「国語辞典」、「漢字辞典」、「日本語表記辞典」や「日本語アクセント辞典」を入れています。

「日本語アクセント辞典」は私の本業である放送業界では必携です。「箸」と読むのか「橋」と読むのか。全国の方がご覧になる番組や映像を作るわけですから、いわゆる「標準の発音」を確認しておかなければならない場面がたくさんあるんです。

その他にも「広辞苑」、「大辞泉」、「漢語林」、「明解国語辞典」、「シソーラス辞典」なども入れていますが、これでもまだ足りないなと思っています。

面白いところでは「ネガポ辞典」というものも入れています。これは、ネガティブな言い回しをポジティブに変えるという辞書で高校生が作ったものだそうです。メールでの言い回しを考えるときに役立ちますね。

ウェブサイトの情報もこまめにチェックしています。特に、NHKの放送文化研究所や文部科学省のウェブサイトは勉強になります。アルクが運営している、外国の方に日本語を教えるためのウェブサイトも面白いですよ。

登壇する前日や当日でも「あの表現はどうだったかな?」と自分の記憶に間違いがないか調べて確認しています。

たとえば、受講生に「この本に書いてある内容と講座の内容が異なるのですが、どちらが正しいのでしょうか」と質問された場合、佐藤さんでしたらどのようにお答えになりますか。

私でしたら、

「確かに、いろいろな考え方がありますね。また、日本語の表現も時代や地域、業種によって変わってくるものです。ただ、一般社団法人日本ビジネスメール協会では毎年、『ビジネスメール実態調査』というビジネスパーソンのビジネスメールに対する考え方を調べる全国調査を行っております。この講座でご説明しているのは、その調査結果に基づく『最大公約数』としての日本語表現、多くの方が『これなら大丈夫』と考えているビジネス上での表現です。みなさんがメールで気持ちのいい、スムーズなコミュニケーションができるようなルールを、この場ではご提案しています」

という風にお伝えすると思います。

言葉はどんどん変化していくわけですから、それを踏まえて、コミュニケーション手段としてのメールの書き方、表現についてお伝えしています。

日常的に継続して学んでいらっしゃる姿勢が、佐藤さんの講師力の高さに表れているように思います。だからこそ、受講生や研修担当者からも信頼を得られているのだと、お話を伺って実感しました。

ありがとうございます。教えるためだけにストイックに学んでいるわけではありません。自分の本業である映像の仕事のスキルアップにも直結しますし、自分自身の学びになるので行っていることでもあります。

映像制作の現場でもメールで出演依頼をすることが本当に多くなりました。さまざまな業界の方に対して、どうしたら、より丁寧に誤解なくお伝えできるかを常に考えています。そうした学びは全く苦ではありませんね。

むしろ、知識がないことの方が講師として恥ずかしいですし、怖いと思います。ですから、日本語表現や敬語などで気になることがあったら、すぐに調べてストックしています。

伝える技術で心がけていること

講演する際に工夫していらっしゃることがあれば教えてください。

2~3時間、座って話を聞くだけでは、眠くなったり飽きてしまったりする受講生もいます。これは講師としての基本だと思いますが、しっかりと大きな声を出して聞き手を引きつける話し方をするように心がけています。

実は若い頃、演劇をしていたことがあるので、役者をした経験が役に立っています。私自身とても飽きっぽいので、まずは私が飽きないようにするにはどうしたらいいかを、いつも考えています。そのことが受講生にとってもプラスになっているのかなと思いますね。

講演中、指名の仕方も工夫していらっしゃいますね。

たいていの講座では、だいたいみなさん後ろの座席から座っていきますよね。特に、大人数のセミナーの場合は、なかなか最前列に座ろうとはしません。だったら、こちらから近づいていったらいいのでは?と、あるときひらめいたんです。

意識して会場内を歩き回り、後ろの席から指していきます。「前の席に座ると指されると思っているなら間違いですよ。後ろの席から指しますから前の席にどうぞ」と会場の広さや人数に関係なく、講座が始まる前にお話しするようにしています。効果てきめんですよ。

その一声があるかないかで受講生の態度は違いますか。

全然違いますね。企業研修の場合は、強制的に参加させられて不本意だという意識の受講生もいます。そういう方にも「どんどん指しますよ。せっかくの学びの機会ですから一緒に頑張りましょうね」とメッセージを送るようにしています。ワークも「分からないときは、お隣の方や周りの方と話し合っても構いませんよ」とお声掛けすると、最初は嫌々ながら受講していた雰囲気の方でも真剣に聞いてくださるようになります。

新入社員向けの集合研修では「答えが分からなくて困っている人がいたら、周りの人が積極的に助けてあげましょう」というお話もします。

「この場はいくら間違えても大丈夫な場所。とにかく考えることが大事だから、うまく答えられなかったら、お隣の人の力を借りてでも、とにかく何か発言しましょう。仲間と一緒に考えることも仕事に役立つ大切な要素なんですよ」とお伝えしています。

間違えたくない、人前で話したくないという心理的ハードルを下げ、リラックスして受講できるように場の雰囲気を楽しく盛り上げるように心がけています。

新人のうちに、しっかりした研修を受けておくと後々、役立つことが多いですね。

本当にその通りだと思います。

ある程度、社内でキャリアを積んだ中堅社員向け研修でも進め方には気を遣っています。企業研修ですと、自分のメールに問題があるとは思っていない方が一定数いらっしゃいます。「なぜ、今さら自分がこんなことを勉強しなければならないのか」という、やや反抗的な態度で臨まれている方もいますね。

ただ、ワークでは、中堅社員さんの方が答えに悩まれることが多い印象を受けます。新入社員さんの場合は、失敗してもそれほど恥ずかしくないと思っているせいか、比較的どんどん答えてくれますし、間違えても「テヘヘ」と笑うことができますね。一方、中堅の方は、考えすぎて答えられなくなってしまったり、間違えることを恐れて全く答えなかったり、「分かりません」といって考えることすら放棄してしまったりすることも、しばしばあります。ですので、受講生の反応や態度に応じて、研修や講演の仕方を柔軟に変えるようにしています。

また、ご依頼いただく企業の雰囲気や業界、研修の目的、参加者の要望などにも合わせても変えています。とある不動産会社での研修では、営業職の方が対象だったこともあり「みなさんのメールのミスが損失に直結するんですよ!お客さまのメールの受信箱で、すでにライバルとの競争が始まっているんです!!」と少し迫力がある気合いの入れ方をしたところ好評でした。

その他、心がけていることや意識していることがあれば教えてください。

企業研修に登壇する際は、ホームページなどで企業情報を下調べしていきます。さらに、ビジネスメールに関する課題や悩み、知りたいことを事前にイメージしておくと、実際にお話しするときもスムーズです。事前の下調べは重要ですね。

なにより、講座を通じて、受講生のみなさんとご縁を頂いているということが、私にとっては一番ありがたいことです。「お招きいただいて本当に感謝しています」、「講座にお越しいただいてありがとうございます」という気持ちを最初にお伝えしたいと思っているので、何か共通点がないか、どこかに接点はないかを必死に考えます。

講座の中で、初めてメールを送るときは「あなたと私はこういう関わりがあるんですよ。だからメールをお送りしています」というように、相手との関係性を必ず書く必要があるとお伝えしています。これは、ビジネスメールだけでなく、日常のコミュニケーションでも必要なことだと思うんです。

ですから私は、このことを自ら実践するという意味でも講座の最初に「私と受講生のあなたは、こういうご縁がありますね、ありがとうございます」とお伝えします。すると、受講生のみなさんの表情が少し変わります。自分自身と何らかの関係があると分かると、人は相手に対して興味を持ちますよね。

講座の途中で「講座の最初に『私とみなさんとは、こういうご縁があります』とお話をしましたよね。それはメールでも必要なことなんです」とお伝えすると「ああ、講師の佐藤が最初にした挨拶の意味はそういうことだったのか!」と受講生のみなさんの目がパッと輝くんです。

実際に感じてもらうことが重要です。だから、プログラムの内容に沿っているということを、講師自身がきちんと態度で示さなければいけないと常に思っています。

受講生の興味を引くという意味では、テレビ業界の話などは受けがいいですね。「以前、こちらの企業の取材をしました」とか、「撮影でこちらの製品を使いました」というお話をすると、やはりみなさん嬉しそうな顔をなさいます。

テレビの話ができないときは、自分の趣味に結びつけて話をしたりもします。国土交通省へ伺ったときは「私は自転車に乗ることが趣味なので、日々こちらの省にはお世話になっています。ぜひ、日本中の道路を自転車で走りやすくしてください」とお話をしました。

どんなことでも相手との関わりを感じられるネタになる。そういうことも自分自身の話を通じて受講生のみなさんに理解していただければ嬉しく思います。

大切なのは本質を分かりやすく伝えること

講師には何が必要だと思いますか。講師にとって大切なことは何だとお考えでしょうか。

プログラムの本質を、いかに分かりやすく受講生にお伝えするか。その工夫を怠らないことだと思います。同じプログラムであっても、どんな方が受講するかによって伝え方は全く変わってきます。

「新入社員」、「中堅営業社員」、「リタイア後に改めて学びたい高齢者」、「再就職しようと考えている主婦」など受講生のプロフィールもさまざまです。一般公開講座をご受講いただく方、企業研修で受講される方、社員研修を企画してくださる企業の担当者など、対象に応じて伝え方を変える。講師には、そうした臨機応変さや柔軟性が求められるのではないかと思います。

「ビジネスメールコミュニケーション講座(ベーシック編)」の魅力や学ぶポイントをお聞かせください。

魅力は、講座で学んだことを活用できるようになれば仕事が確実にスピーディに行えるようになると、自信を持って言い切れる点でしょうね。私自身が日々の仕事で実感していることです。

講座の第1部(メールの基本ルール・マナー)は、基本を初めて学ぶ方にとって重要です。メールを使う上で押さえていただきたい基礎です。

最近は、受講した方の反応から、第2部(心遣いとライティングテクニック)がより重要になってきているように感じます。ビジネスメールが、いかに仕事上での主要なコミュニケーションツールになっているかの現れでしょうね。

「相手に不快感を与えない言い回し」や「曖昧な表現をしない」といった解説を聞いた受講生のみなさんが「そういうふうに書けばよかったのか!」、「もっと早く知っていれば……」と自分なりの気付きや発見をしていらっしゃるのを見ると、お伝えできて本当によかったなと感じます。

ビジネスメールの研修だけど、メールに限らず対面でも使える言い回しが学べてよかったという感想をいただくこともあります。

たしかにその通りですね。ビジネス文書と違って、より話し言葉に近い書き方をするのがメールの特徴の一つです。それはつまり、普段の話し言葉がきちんとしていれば、それをメールに当てはめればいいということです。

TPO に応じて、ふさわしい場でふさわしい言葉遣いができれば、メールにそのまま書けばいい。そうすれば、メールも丁寧な心のこもった書き方ができる。そうお伝えすると、受講生のみなさんは「ああ、それでいいのか」とホッとしたような表情をなさることが多いですね。

今後の展開

今後の展開、目標についてお聞かせください。前回、インタビューさせていただいたときは、目標として、お子さんや父兄向け、学校向けのメール教育の話を伺いました。

そちらの方も順調に活動を広げています。「親子スマイルネット」という任意団体を作り、いくつかの自治体や小中学校、高校のPTAなどでも、お話をさせていただいています。

先日は、朝日新聞からインタビューを受け、その記事が掲載されました。メールを送る場合には必ず名乗り、所属と名乗りを入れたほうが誤解なく伝わりますよとか、LINEでは込み入った話はしないようにしましょうといった話をしました。

最近、親御さんが心配されているのは子どものスマホ、特にLINEやTwitterなどとの関わり方です。私にもスマホに夢中な高校生の娘がいます。自分自身の経験を交え、まずは親がメールの書き方を含めたネットコミュニケーションのルールとマナーをしっかり学びましょうとお伝えしています。

ママ友や娘の学校のPTAなどでも、草の根的にメールのルールやマナーをお話ししています。そのときにも、認定講師の資格が役に立っています。「こうするべき。これが正しい」と「上から目線」で話すと角が立ちますよね。「実は私、ビジネスメールの講師をしているんですよ」と、やんわりとさりげなく自分は専門家であることを伝えると「あらそうなの、専門家なのね。じゃあ任せたわ」とあっさり受け入れてもらえることが多いです。PTAなどでも連絡のルールを決めやすくなりました。

資格を取得して、しっかり学んで理論立てたものを持っているからこそ、説明に納得してもらえるし説得力があるというわけですね。

個人的な好みの話ではなく、一般的なルールとしてという提案ができるようになったことも、認定講師の資格を取得してよかったなと感じることのひとつですね。

ありがとうございました

(2015年7月インタビュー)
前回のインタビュー(2012年11月)の様子はこちら